皆さま、スーツ姿のイケメンのイラストはお好きですか? 私は大好きです!
でもスーツのイラストを格好良く描くのってなかなか難しい。そう思われている方も多いと思います。私も初めは苦手でした。
私がイラストレーターとしてお仕事をさせて頂いていたBL小説の世界では、スーツ姿のイケメンさん達がたくさん登場します。その素敵な世界を壊すことなくイラストで表現できるように、どうすれば格好良く描けるかひたすら研究してきました(そして現在も研究中です)。
今回はスーツの基本と、スーツのイラストを描く時気をつけるべきポイントについてお話しさせて頂きたいと思います。
スーツの基本
まずはスーツの基本から。イラストを描く時必要になる各部位を中心にご紹介いたします。
襟やポケット、縫い目、折り目など。各パーツをあるべき場所に描き込むことによって、スーツらしさが増します。
スーツ特有の仕立てのポイントをおさえておきましょう。
例えば、Tシャツやカットソーなどでは袖の縫い目は脇と繋がっていることが多いのですが、スーツでは背中側に来ます。
ジャケット
- カラー 上襟のこと。
- ラペル 下襟のこと。
- 胸ポケット 左胸のポケットのこと。
- フロントダーツ ダーツとは「つまみ縫い」の意味。身体にフィットした美しいラインを作るためのもの。
- 腰ポケット 左右の腰の位置にあるポケット。
- カフ 袖口のこと。
- フロントカット 前裾のカットされた部分。
- ゴージライン カラーとラペルをつなぐ縫い合わせ。
- フラワーホール ラペルにある穴のこと。元々花を飾っていたため、フラワーホールと呼ばれているのだとか。現在では社章やラペルピンをつけることが多いです。
- バックシーム 後ろ見頃中心の縫い目のこと。
- ヴェント 後ろ見頃に入ったスリット。
- 裏地 着脱がしやすいよう、滑りの良いしなやかな生地が使われています。
- 内ポケット ジャケット内側にあるポケット。
- 見返し ジャケット内側前端の表地を使った部分のこと。
【ボタンのとめ方】一般的に(シングルひとつボタンを除いて)一番下のボタンはとめないのがルールとされています。
トラウザー
- ウエストバンド トラウザー上部につく帯状の部分。
- ベルトループ ベルトを通すためのループ。
- サイドポケット 左右脇についているポケット。
- 前立て ボタンやジッパーのついた開閉部分のこと。
- クリース 折り目のこと。後ろクリースは、ヒップ部分に向かって自然にフェードアウトするようにつけられていることが多いです(あと前クリースよリも上部がハの字にすぼまっています)。
- ヒップポケット ヒップ部分についたポケット。
シャツとネクタイ
- ヨーク 後ろ見頃上部にあしらわれた、切り替え布。
- 襟 顔まわりのイメージを大きく左右するところ。色々な形があります。
- 台襟 襟と見頃をつなぐ帯状の部分。
- 前立て 前見頃のボタンがついた見返し部分。
- ダーツ ダーツとは「つまみ縫い」の意味。シャツのシルエットをすっきり美しく見せるためのもの。
- カフ 袖口のこと。色々な形があります。
- ノット ネクタイの結び目のこと。
- ディンプル ノットの下の窪み。飾りとして入れるものなので、お悔やみの席や謝罪に伺う時は作らないのがマナーみたいです。
- 大剣 ネクタイの太い方の剣先。
- 小剣 ネクタイの細い方の剣先。
- ループ 大剣の裏側についている、小剣を通して固定させるためのもの。
ネクタイは構造が複雑なので、絵のモデル用に1本持っていると重宝します。高価なものでなくても大丈夫。私は古着屋さんで買ったものを使っていました。
ただ、端を持ってまっすぐ下に垂らした時、グルンとねじれてしまうものは避けた方が賢明です。生地が伸びていたり、縫製がうまくいっていない可能性があります。
キャラクターが身につけた状態を把握しておく
キャラクターが身につけた状態のスーツを見てみましょう。
各ディティールが、身体のどの位置に来るのかを知っておくと、イラストを描くときの大切な目安になります。
デザインによる違いもあるのでだいたいで構いません。例えば、2つボタンのスーツではひとつ目のボタンの位置は鳩尾あたり、腰ポケットは腰骨の出っぱったあたり……などです。
覚えておくと便利なこと
スーツを描くときに覚えておくと便利なポイントをまとめました。
スーツのイラストが難しいと感じる理由と対策
スーツは構造が複雑
スーツはたくさんのパーツからできています。
手持ちの洋裁の本で調べたところ、ジャケットのパーツは芯やボタンなど付属品を除いても全部で30枚近くありました。ホームソーイングの本なので、プロの現場で作られるジャケットだとさらに多いと思います。
そのたくさんのパーツを着る人の身体に合わせ、必要に応じて芯を入れ、立体的に縫い合わされてできているのがスーツです。構造もシワのでき方も影のでき方も複雑。
想像や記憶だけを頼りに描くのは、なかなか難しいのです。
対処法1 必ず資料を見て描く
スーツのイラストを格好よく描くには、資料をよく見るということが不可欠だと思います。
普段からご自分の描きたいイメージに合った写真を、スクラップして集めておきましょう。ネットを利用するときは、欲しいイメージが探しやすい『Pinterest』が便利です。
映画を観るのも勉強になります。スーツ姿のキレキレのアクションシーンが格好良い『キングスマン』と『007』シリーズがおすすめです(もちろんストーリーもめちゃくちゃ面白いです)。
各出版社から、イラストや漫画に使える写真資料集が色々と出版されているので、それらを利用するのもGOODです!
ネットや書籍などで見つけた画像を、そのままそっくりポーズを写し取ったり、トレスして使ってしまうと、その画像の著作者の権利を侵害してしまうことになります。
著作編フリー・トレスフリーなどの記載がある場合を除き、画像を利用する場合はあくまで参考にすることに留めましょう。
スーツのイラストはのっぺりしやすい?
スーツは基本的に上下がセット。ジャケットとトラウザーに分かれてはいますがイラストとして表現する場合、素材も色も同じひとつのかたまりでしかありません。
その素材も色も同じかたまりが画面の多くを占めることによって、イラストが単調に見えやすいのではないか。私はそう考えています。
対処法1 ベースの色と影色にコントラストをつける
スーツのイラストを塗る時、グラデーションでふんわり影をつけてしまうと、メリハリがなくなって固まり感を強調してしまいます。
少しオーバーに感じるくらいに色の差をつけると画面が締まります。
対処法2 パーツを増やす
ひとつでも多く、素材や色の異なるパーツを増やしましょう。
例えばポケットチーフ、カフリンクス、タイバー、腕時計、懐中時計のチェーン、眼鏡、帽子、革手袋など。
スーツ周りの小物はデザイン的におしゃれなものが多く、素材もさまざま。取り入れると作品がグッと華やかになります。
特にポケットチーフは、のっぺりしがちな胴体部分のアクセントになり、胸元の立体感も演出できるのでおススメです。
本やタブレットなどを持たせたり、お仕事中をイメージしたイラストなら社員証をつけるのも。ストラップに鮮やかな色を使うとスーツの濃色に映えてキリッとします。
対処法3 パーツのハイライトをしかっり描き込む
特に、ボタンやベルトのバックルなど硬いパーツのハイライトです。ほんの小さなチカッとした光ですが、その効果は絶大。スーツのしなやかな生地との対比で画面が引き締まって見えます。
対処法4 動きを取り入れる
キャラクターのポーズにねじりや傾きを加えると、スーツに流れるようなシワが入って躍動感が出ます。髪やジャケットを風になびかせるのも素敵です。
建造物並みにパースの狂いにシビア。服なのに!
スーツは他の衣服に比べて直線の多い衣服です。直線の多いものを描く時に困るのがパースの狂いが目立ちやすいところではないでしょうか。
描いてはみたもののなんとなく歪んで見える。手がかりもなく修正を繰り返し、形をとるだけでヘトヘトになってしまう。そんなことが私はしょっちゅうあります。
途中で逃げ出したくなります……
この悩みについては、私自身まだ勉強中です。それでもわかってきたこともあるので、この場でお話ししたいと思います。
対処法1 描き始める前にアイレベルを明確に決めておく
アイレベルとはパース用語で、目の高さのこと。下の図のように、四角く切り抜いた紙を持ち、真っ直ぐ前を向いて立ったり座ったりして見える景色のイメージです。
スーツは、見る高さによって見え方がかなり変わります。
1枚のイラスト、1人のキャラクターの中に色々な高さから見た部位が混在した時、歪んで見えるのではないか。そしてスーツは、その直線的なシルエットによってそれが目立ちやすい。私はそう考えています。
なので対処法は、描き始める前にアイレベル、画面に対する目の高さをはっきり決めておく。背景を描く予定がなくても必ず決める。そして完成するまで動かさない。これで歪みを軽減できるように思うのです。
対処法2 遠近グリッドをガイドにして描く
最近は色々なペイントソフトやアプリで、遠近グリット(パースグリッド)の機能が使えるようになりました。
背景や小物を描く時に大変便利なこの遠近グリッドを、スーツを描くときのガイドにする方法です。画面の中に空間ができるので物を立体として捉えやすく、形が取りやすくなるのでおススメです。
スーツのイラストを描いてみよう!〜モノクロイラストのメイキング〜
今回はモノクロで、スーツのイラストを制作したいと思います。
下絵の工程までは遠近グリッドを表示させて、それをガイドに形を取っていく方法をとりました。Procreateでの操作方法をご紹介していますが、お使いのペイントソフトやアプリに同じ機能がある場合はぜひそちらでお試しください。
【Procreateで遠近グリッドを表示させる方法】
今回は2点透視のグリッドを作ります。
編集画面左上のスパナマークをタップして①アクションメニューを開きます。キャンバスアイコンをタップ②→描画ガイドの項目をオンに③→描画ガイドを編集をタップ④。
描画ガイドの編集画面に切り替わりました。
デフォルトでは2Dグリッドになっているので、『遠近法』を選択して切り替えます⑤。左右どちらかの消失点をひとつ決めてその場所をタップすると⑥、アイレベルの線が自動的に表示されます。その線上にもうひとつ消失点を取りましょう⑦。
アイレベルの高さは人物の胸あたりに、消失点はキャンバスの外側にとると自然に見えます。
左上の完了ボタンをタップすれば準備完了です。
準備ができたら、早速描いていきましょう!
下絵を描く
まずざっと素体を描きます。ポーズや身体の向きなどはここで決めておきます。
ジャケットを描く時はパーツ分けすると描きやすいです。芯が入っていて皺の入りにくい胴体部分と、シワの入りやすい腕部分に分けます。
まず胴体部分から書いていきます。v字の襟の開きも描き込みましょう。適当な色でベタ塗りしておくと、形の歪みが分かりやすく修正がしやすいです。
続いて腕部分も描きます。オレンジ色で示した部分には肩パットが入っています。胴体から肩のつなぎは、厚みのあるベストから腕がニョキッと出ているようなイメージで描くとそれらしくなります。
シャツやネクタイ、ポケットなどのディティールを細かく書き込んでいきます。キャラクターの表情や髪型も描きましょう(格好良くな〜れと念じながら)。
シャツの襟は、紙などを使って下図のような模型を作ってみると構造が分かりやすいです。
ペン入れをする
下絵の線を薄くして、ペン入れします。
線を描くときは、首の下や影になっている部分を太く強く、光の当たっている部分を細く弱く調子をつけると立体感がでます。
ペン入れが完了したら、遠近グリッドはいったん非表示にしておきます。
【遠近グリッドの表示・非表示】
編集画面左上のスパナマークをタップしてアクションメニューを開く→キャンバスを選択→『描画ガイド』の項目のスイッチをオンオフすることで、表示非表示を切り替えることができます。
仕上げ
全体のバランスを見ながらグレーの濃淡でべた塗りします。
影を入れます。影の入り方でスーツらしさが出るので、資料などを参考にしてみましょう。
眼鏡やタイバー、ポケットチーフ、シャツの柄などの細部を描き込んで人物は完成です!
今回は初めに設定した遠近グリッドを使い、背景を描き足してみました。
マール社様『新背景カタログ カラー版 3・オフィス編』61ページ上の写真を参考にさせて頂きました。
【Procreateの遠近グリッドの機能を使うには?】
編集画面右上のレイヤーアイコンをタップ①→背景を描きたいレイヤーを選択し、サムネイルをタップ②→レイヤーメニューの描画アシストにチェックを入れます③。
サムネイルの名前の下に『アシスト中』の文字が表示されればOK。設定した遠近グリッドに沿った直線が引けるようになります。
完成!
細かいところをチェックして完成です。
いかがでしたか? 今回はスーツの描き方、格好良く描くポイントについてお話しさせて頂きました。
それでは今日はこの辺で。お互い素敵なスーツのイラストを描きましょうね♪
この記事を読んで頂き
ありがとうございました!